近年、日本企業において「健康経営(=従業員の健康管理を経営課題と捉えて行動すること)」が、単なる福利厚生の延長ではなく、採用力・生産性・企業価値に直結するテーマへと変化しています。とりわけ、2026年以降には以下のような背景から制度が変わっていくと予想されており、企業が「対応を先取り」する必要性が高まっています。
- 少子高齢化の進行や医療・介護費用の増大に伴い、国は「1次予防(健康づくり)」「2次予防(重症化予防)」「3次予防(再発予防等)」という方向性で、「生涯現役社会」の構築に取り組んでいる。
- 従業員のメンタルヘルス不調・長時間労働・生活習慣病による生産性低下が、企業リスクとして可視化されている。
- 「義務対応的な健康管理」から「戦略的健康経営」へとフェーズが移行しており、2026年以降は対応遅れが競争力低下につながる可能性がある。
この記事では、2026年以降に想定される主要な法改正・制度変更を整理し、それぞれについて企業が現状から準備できる具体策を提示します。
参考文献
経済産業省「これからの健康経営について」
監修者紹介
健康経営支援サービス ビズリフレ 健康経営アドバイザー
大住 奈保子(おおすみ・なほこ)
1984年、京都府生まれ。大阪市立大学文学部哲学歴史学科卒業。出版社勤務を経て2015年にフリーの編集者・ライターとして独立、2017年に株式会社Tokyo Editを設立。現在代表。ソフトウェア開発や企業の集客に役立つWebコンテンツ制作、リラクゼーションサロンの運営などの事業を展開する。2025年、健康経営支援サービス「ビズリフレ」を開始。健康経営アドバイザーとして企業の健康経営を支援している。
2026年以降に予定されている主要な法改正・制度変更の全体像
まず、直近数年以内に行われることが予定されている、健康経営に関連する制度・法律の改正について俯瞰します。
ポイントは、「働く場(職域)」「生活習慣」「女性・高齢者などのライフステージ」「データ・情報」の4軸です。
- 職域:長時間労働・メンタルヘルス・ストレスチェック制度の強化。
- 生活習慣:運動の習慣づけに対する支援。生活習慣病予防の強化。
- ライフステージ:女性特有の健康課題(更年期・月経)への対応。健康寿命の延伸。生涯現役社会の構築。
- データ・情報:健診・特定保健指導のデジタル化。PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)。データヘルス経営。企業の健康経営の成果開示。
記事の以下各章では、これらの軸の中から具体的な改正項目を取り上げ、「想定される改正内容」と「企業の対応策」に分けて整理します。
参考文献
改正①:ストレスチェック制度の強化(2026年〜)
2026年以降の制度改正では、ストレスチェックを単なるイベントではなく、組織改善へ確実に結びつけるよう運用することが標準化される見通しです。対象範囲の拡大や集団分析の実施、結果のフィードバックの強化により、従業員一人ひとりのストレス状態と組織の課題を把握し、改善策を講じることが企業の責務になります。従来より産業医・保健師との連携が重要性を増し、ストレスチェックの結果の“放置”が許されない時代となります。
想定される内容
- 現行の労働安全衛生法に基づく「ストレスチェック制度」は、常時使用する労働者が50人以上の事業場に実施が義務付けられています。
- 「ストレスチェック制度」には、集団分析の実施と、その結果を職場環境改善につなげることは「努力義務」と明記されています。
- 今後、労働者数が50人未満の事業場も対象になったり、集団分析と環境改善の義務化が進んだりする可能性があります。
参考文献
厚生労働省「ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等」
厚生労働省「改正労働安全衛⽣法に基づくストレスチェック制度の概要」
企業の対応策
- 現時点でストレスチェックが義務づけられている企業規模を確認し、将来的な対象拡大に備えた体制を整備する。
- ストレスチェック実施後、放置せずに集団分析→環境改善アクションが取れるフローを構築する。
- ストレスチェックの結果を個人情報として保護し、共有範囲を明確化させる。現状、「ストレスチェックの結果は、労働者本人の同意なく企業に提供することは禁止」「集団分析の結果は、労働者本人の同意なしでも企業は把握できるが、10人未満の集団分析においては労働者全員の同意が必要」といった注意点がある。
- 産業医・保健師・相談窓口など、健康管理の専門家との連携を強化する。
- ストレスチェックを「単なる検査」に終わらせず、 健康経営戦略のデータ源として活用できる仕組みを構築する。
改正②:健康診断・特定保健指導のデジタル化義務化(2026年〜)
健診データの電子化とPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)推進により、企業は健診結果をより高度に活用することが求められます。紙やPDFでの保存ではなく、他ツールとのデータ連携が可能なシステムで管理し、産業医と共有しながら、健康にリスクを抱える従業員の早期発見やフォローアップを行うことが必須化されていくでしょう。また、企業はデジタル管理体制の整備に加え、個人情報の保護やプライバシー対策の強化も行う必要があります。
想定される内容
- 健康増進法の基本方針が改正され、政府は令和6(2024)年度から「誰一人取り残さない健康づくり」を掲げています。
- 健診・特定保健指導のデータやPHRの活用、情報共有の仕組みの整備が強化されています。
- 企業においても、健診データの電子化・分析・報告が実務上の負荷になってくる可能性があります。
参考文献
企業の対応策
- 健診データ管理システムの導入、もしくは既存システムの見直しを行い、電子データ化を進めるととともに分析可能な体制を整備する。
- 産業医・保健師・健診機関との連携を強化し、データの共有・活用のルールを策定する。
- 健康データは個人情報・要配慮情報に該当するため、プライバシーや情報セキュリティに配慮した対応を行う。
- 健診結果を「提出・保管」するだけで終わらせず、「健康経営戦略」につなげる指標を設定し、フォローアップする体制を構築する。
改正③:メンタルヘルス対策の強化(2026年〜)
メンタルヘルス対策は、従来の「発症後の対応」から「予防中心のアプローチ」へ移行します。企業には、従業員教育(セルフケア・ラインケア)の強化や高ストレス者の早期発見、相談体制の整備など、おもに一次予防の仕組みづくりが求められるようになるでしょう。メンタルヘルス不調は離職や生産性低下に直結するため、管理職の役割も重要性が増します。外部窓口との連携を含めた体制づくりが必須となる改正です。
想定される内容
- ストレスチェック制度に加え、メンタルヘルス不調に対する一次予防・二次予防(教育・相談制度・早期フォロー)を担うなど、企業の責任範囲が拡大する傾向にある。
- 長時間労働・過重労働とメンタルヘルスの関連を踏まえた、制度の強化や指針の改正が進む。
参考文献
企業の対応策
- 管理職・リーダーに対し、メンタルヘルス研修(例:早期の気付き・相談窓口の紹介・復職支援に対する知識)を実施する。
- 社内の相談窓口と外部の専門機関を連携させたハイブリッド体制を整備する。
- メンタルヘルスに関する指標(例:休職日数、相談件数、ストレスチェックにおける高ストレス者の割合)をKPI化し、健康経営戦略に組み込む。
- フォローアップ体制(例:高ストレス者への産業医面談、就業上措置の検討)を整備する。
改正④:長時間労働対策の強化(2026年〜)
働き方改革の深化により、長時間労働の管理がこれまで以上に厳格化されます。残業時間の上限遵守だけでなく、勤務間インターバルの確保や過重労働者の医師面接、リモートワーク環境下での勤怠管理ルールが必須となる方向です。管理職が部下の健康状態を把握し、異変が見られた場合は早期に介入する「健康管理マネジメント」が不可欠となり、企業はツール導入を含む監督体制の強化が求められます。
想定される内容
- 働き方改革関連法の流れを受け、残業時間の管理・休息時間の確保・管理モデルの義務づけがより厳格化される。
- 「労働安全衛生法」や「労働者の心の健康の保持増進のための指針」で、健康リスクとしての長時間労働への対応が明確化される。
参考文献
企業の対応策
- 残業時間や実労働時間のモニタリングツールを導入し、デジタル記録を制度化する。
- 在宅・リモートワークを含めた勤務管理ルールを見直し、勤務開始・終了・休憩時間を明確にする。
- 管理職に対して健康管理マネジメント研修(例:長時間労働の予兆把握・部下への声かけ)を実施する。
- 健康経営レポートに「労働時間関連指標」を盛り込み、離職・欠勤との相関を可視化する。
改正⑤:女性の健康支援の義務化(2026年〜)
女性特有の健康課題(月経・PMS・更年期症状など)への支援が、企業の重要な責務として明確化される見通しです。政府は女性の活躍推進と健康保持を一体で捉えており、企業には教育プログラムの提供や相談体制、柔軟な勤務制度といった取り組みが求められます。管理職の理解不足が女性従業員の離職につながることも多いため、女性の健康課題に関する知識啓発も必須です。女性の健康支援に対する評価制度が創設される予定なので、企業の対応は不可避といえます。
参考文献
想定される内容
- 女性のライフステージ(妊娠・出産・更年期・月経)における健康支援を、企業が義務的に行う方向性にある。国の基本方針でも、「女性の健康問題」に対する意識を高める必要性について明記されている。
- 柔軟な勤務制度・休暇制度・情報提供を含む「配慮義務」の明確化が進む可能性がある。
参考文献
企業の対応策
- 女性従業員向けの健康支援制度(例:更年期ケア、月経休暇・配慮制度)の設計を行う。
- 健康教育・セミナー(例:女性特有の健康リスク)の実施を年次計画に組み込む。
- 人事・総務・産業保健スタッフ間の連携を強め、「女性の健康支援=健康経営」の要件に位置づける。
- 健康経営優良法人認定制度への申請などにおいて、「女性の健康支援」に関する取り組みを内部資料としてまとめ、公開する。
改正⑥:健康経営優良法人認定制度の評価基準アップデート(2026年〜)
健康経営優良法人認定制度における評価基準は、「取り組んでいるか」から「どのような成果が出ているか」へと重心が移ります。ストレスチェックや健診、女性の健康支援、生活習慣の改善などの施策において、客観的データや改善プロセスを示したエビデンスの重要性が高まるでしょう。中小企業に対しても基準は高度化し、年間計画の策定やPDCA運用、専門家との連携など、より体系的な健康経営が必要となります。
想定される内容
- 健康経営優良法人認定制度においては評価項目が拡充され、「効果の可視化・継続改善」が重視されるようになる。
- 産業保健・メンタルヘルス・女性の健康支援・生活習慣といった、「幅」のある健康経営が評価対象になる。
- 中小企業に対しても、高度な評価基準が適用される可能性がある。
企業の対応策
- 健康経営の年間計画を策定し、施策・KPI・責任部署を明確化してPDCAを回せる体制を整備する。
- 各施策(例:ストレスチェック・健診フォロー・運動プログラム)について、始めた時点の数値+改善後の実績を記録・報告できるようデータ管理を行う。
- 外部の専門家(産業医・保健師)との連携体制を事前に構築し、健康経営優良法人認定を申請する際の資料作成をするためのリソースを、社内で確保しておく。
- 健康経営優良法人認定を単なる「バッジ」とせず、 採用・定着・生産性向上へつながる戦略的指標として活用する。
改正⑦:運動習慣・生活習慣病対策支援の強化(2027年〜)
国が進める「未病改善」政策に合わせ、企業においても生活習慣病予防への積極的な関与が求められます。運動不足解消の取り組みや歩数チャレンジなどの行動介入、睡眠・食生活改善プログラムなどが標準施策となります。また、保健指導の実施率だけでなく「効果測定」も重視されるため、KPIの設定が欠かせません。企業としては、従業員の健康行動を促す環境づくりが必要となります。
想定される内容
- 国が掲げる「健康日本21(第三次)」では、生活習慣病だけでなく「ロコモティブシンドローム」「睡眠」「運動習慣」など幅広くカバーしている。
- 企業においても、生活習慣病予防・重症化防止を組織戦略として位置づける流れが強まる。
参考文献
企業の対応策
- 業務時間内に取り組める軽運動プログラムやウォーキングチャレンジ、オンラインヘルスツールなどを導入する。
- 健診・保健指導と連動した「フォローアップ」レポートを定期的に実施する。
- 健康経営のKPI設定(例:運動習慣のある従業員比率、健診で生活習慣病リスク顕在化率、離職・欠勤との相関)を、施策管理に組み込む。
- 健康経営優良法人認定制度への申請をするときのために、「生活習慣改善施策」の証拠資料・効果測定結果を準備しておく。
2026年以降の健康経営に成功する企業が持つ3つの特徴
特徴1:データヘルス経営を行っている
データを「集めて終わり」「報告して終わり」とするのではなく、健診・ストレスチェック・働き方・運動習慣など複数のソースを連携させ、「どの施策が効果を出しているか」を可視化している。
特徴2:一次予防と生活習慣改善への投資を行っている
症状が出てから対応するのではなく、ストレス・運動・睡眠・女性の健康支援など、従業員の健康ポテンシャルを引き出す施策を設計している。
特徴3:従業員の主観(満足度)と客観(データ)の両軸で管理している
施策に対する従業員の満足や定着感をアンケート等で測りながら、欠勤・離職・生産性といった数値で効果を確認している。
中小企業が実務で使える「対応リスト&年間スケジュール」
以下は、労働者数30〜50人程度の中小企業を想定した「初年度~2年目」の最低限対応すべき内容をまとめたスケジュール案です。
| 時期 | 実施内容 |
|---|---|
| 第 1 四半期 | 健康診断データの整理 ストレスチェックの実施可否を確認 一部運動プログラムを試行 |
| 第 2 四半期 | ストレスチェックの集団分析体制を構築 女性の健康支援制度の検討 管理職への研修を設計 |
| 第 3 四半期 | 運動・生活習慣改善プログラムを本格導入 健診のフォロー体制を整備 労働時間管理ツールの導入を検討 |
| 第 4 四半期 | KPIの設定と数値目標の策定 健康経営優良法人認定制度への申請準備(資料整理) 改善サイクルの設計(来年度計画) |
ビズリフレが提供できるサポート
2026年以降、健康経営は「法対応」と「予防施策」の両輪で進めることが求められます。しかし、中小企業では人事・総務の担当者が複数領域を兼務していることが多く、施策設計から運用、効果測定までを社内だけで完結させるのは容易なことではありません。こうしたとき、健康経営の実務を進めるパートナーになるのが、健康経営支援サービス「ビズリフレ」です。ビズリフレでは健康経営の実務を段階的に支援するため、下記のようなメニューを提供しています。
1. ストレスチェック結果レポートの作成支援(集団分析付き)
ストレスチェックの実施後に求められる「集団分析」「職場環境改善の方向性提案」を、専用フォーマットに基づき作成します。高ストレス部署の傾向分析や改善アクション案も提示するため、担当者の負担を軽減しつつ、施策を次の一歩につなげることが可能です。
2. 健診データ × AI姿勢分析 × 施術レポートによる予防施策支援
健診結果や従業員の身体データを基に、姿勢分析(AIツール)+専門家による施術レポートを組み合わせることで、一次予防の効果を可視化できます。職場の生産性向上や運動習慣づくりに直結する提案も行うため、健康経営KPIの改善に寄与します。
3. 女性の健康支援セミナー(月経・更年期ケアプログラム)
女性従業員が抱えやすい健康課題(月経痛、PMS、更年期症状など)に関する教育・相談の場を提供します。柔軟な働き方の整備とあわせて実施することで、従業員の離職防止やエンゲージメント向上にもつながります。
4. 健康経営優良法人認定制度の申請支援(書類作成・KPI設計)
「何から着手すればよいかわからない」という声の多い健康経営優良法人認定制度の申請書類について、下記の全工程を一貫してサポートします。
- 取り組みの棚卸し
- 申請に必要なエビデンスの整理
- KPIの設定
- 来年度の改善提案
初めて申請する企業にも利用しやすいよう、テンプレートと具体事例を組み合わせた実務的な支援となっています。
5. 年間健康経営計画の策定ワークショップ(マニュアル付き)
企業の状況をヒアリングしたうえで、下記の内容をまとめるワークショップを実施します。
- 優先課題の整理
- 半期・年間スケジュールの設計
- 実施する施策案の選定
- 効果測定の方法
ワークショップ後には、社内でそのまま利用できる健康経営計画マニュアルを提供し、担当者だけに負担が集中しない仕組みを整えます。
これらのメニューは、「何から始めればいいかわからない」「専任担当者がいない」「データの扱い方や制度対応に不安がある」といった企業が、無理なく健康経営をスタートできるよう設計されています。また、独自の施術家コミュニティやオンライン講座との連携により、一次予防や生活習慣改善の施策まで一気通貫で支援できる点が特徴です。これから健康経営のレベルアップに取り組む企業に対し、実務負担を軽減しつつ、効果の出る施策を継続できるサポート体制を整えています。
2026年以降は“法対応+予防施策”が標準になる時代
2026年以降、企業が求められる健康経営は、「法令で定められた義務を満たすだけの健康管理」から一歩進み、経営戦略として健康施策を設計し、その成果を確実に積み上げていく段階へと移行していくでしょう。健康診断やストレスチェック、働き方改革、女性の健康支援、生活習慣病予防といった複数の制度改正が重なることで、企業はこれらを個別の取り組みとしてではなく、相互に関連する施策として総合的に扱う必要があります。
特に中小企業においては、限られた人員の中で対応が求められるため、早めに準備を進め、データや数値を活用して効果を可視化し、必要に応じて専門家の力を借りながら体制を整えていくことが、他社との差別化につながります。本記事で示した改正への対応策や年間スケジュールを参考に、健康経営の取り組みを前倒しで進めることで、従業員の健康だけでなく、採用力や定着率、生産性向上といった経営上の成果へと結びつけていくことができるでしょう。

